ゆいちなを10m先で見守りたい

アイドルマスターシンデラガールズ ゆいちなメインのSS

レーヴ・エテルネル

廊下を2人のアイドル、財前時子と相川千夏が並んで歩いていく。
財前時子はいぶかしむ。
何故、この女とユニットを?
相川千夏とはそこまで接点がなかった。
レッドバラードという5人組で活動していることが多いのと、何故か大槻唯というギャルと異常なほどに仲が良い、ということくらいしか知らない。
先程の顔合わせで初めて自分よりも年上だと知ったくらいだ。
・・・まぁ大人びているので年上だろうとは思っていたのだが。
ユニット名がレーヴ・エテルネル、フランス語で『永遠の夢』、というのだと聞いた時は、素直に悪くはないと思った。
悪くは無い。
財前時子にとってこの上ない賛辞である。
相川千夏もフランス語には長けているらしく発音がやたらと流暢だった。
知的な才女といったところか。
まぁ自分のを引き立たせる存在としては悪くないだろう。
と、歩きながら思考を巡らせている所に相川千夏が話しかけてきた。
「これから同じユニットとして、よろしくね、時子様?」
「・・・フン、試しているの?この私を?いい度胸ね」
「あら、何のことかしら」
「しらじらしい・・・様を付けるなら貴女も下僕の仲間入りということになるのだけど?」
「それはお断りだわ、ふふ」
「なら普通に呼びなさいな、相川」
「千夏でいいわ時子ちゃん」
「フン、可愛げのない・・・なるほど、私と貴女で組ませる理由が少しわかったわ」
おもしろくなさそうな顔をして財前時子は言う。
上から押さえつけることはできても横から同調する術を、自分は持っていない。
この女、相川千夏、は、周りがよく見えている。
自分とユニットを組むとはどういうことか、何を期待されているのか、何をすべきなのかを、よくわかっている。
理解している。
「・・・私を理解したとは思わないことね、千夏」
理解する?自分を?会って間もないこの女が?
自分でもうかつな発言をしたと思った。
しかし空気を振動させたその言葉は取り消すことはできない。
「ふふ、何を焦っているのよ、別に取って食べたりしないわ」
「・・・アァン?」
「私は貴女を理解したわけじゃない、理解したいのよ」
「仲良しごっこは大槻唯とでもやっていなさいな」
「ふふ、随分と余裕がないのね、らしくないんじゃない?・・・そう、貴女は貴女らしくしていればいいの、女王様」
その言葉を発する相川千夏は微笑んだ。
いや、これは、苦笑?私を嘲ようと?
・・・違う。
少なくとも、今の段階でわかる情報量でしか推測できないが、この女はこれからユニットを組むという相手に喧嘩をふっかけるようなバカなマネはしないだろう。
なら、何故?
挑発?意図が読めない。
「貴女は女王様、私はその女王様の、そうね、城とでも思って頂戴」
違う、これは、自嘲だ。
納得がいった。
この女は―
「私はね、臆病なの」
思考を上書きするように、相川千夏は言葉を重ねる。
「臆病で、怖がりなの。だから―」
言葉を止める。
「だから?」
「―宜しく頼んだわよ、時子ちゃん」
おもしろい。
財前時子の妖艶な唇の両端が釣り上がる。
相川千夏が何をしようとしているのか、納得がいった。
この女は当然豚と同じような扱いをされたいわけではない。
かといってライバルのように切磋琢磨しようというわけでもない。
―城なのだ。
城は女王の威厳を形而したようなものだ。
自分の気質をそのまま表面上だけ外界に向ける。
私に合わせようというのか。
いや、違う。
『合わせてやってあげるわ』とでも言いたいのか!
「フン、付いて来れるの?鳴くだけなら豚でもできるのよ?」
「あら、豚は陸上選手より速く走れるのよ?」
「チッ、貴女は豚じゃないんでしょう、―千夏」
この私にジョークを投げてくるなんて、中々肝が据わっている。
認めてやる。
この女、相川千夏は、人の上にも立つことが許される人間だ。
「ふふ、年上だもの」
くそ、見透かされている。
表情に出てしまっていたか。
だがこの感情、久しく感じたことの無い高揚、嘘偽りではない。
「やるからには全力よ、いいわね?千夏」
「もちろんよ、時子ちゃん」
「豚どもに永遠とも思える長い夢を見させてやるわ、ククク・・・」
「そうね、私たちはRêve éternel・・・長い夜を楽しませてあげましょう」
財前時子は笑う。
己を高く魅せる為。
相川千夏は笑う。
己を強く魅せる為。
廊下を2人のアイドル、財前時子と相川千夏が並んで歩いていく。